Title: Shoku senzai wakashu
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Title: Kokka taikan
Author: Anonymous
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Title: Library of Congress Subject Headings
14th century Japanese fiction poetry masculine/feminine LCSH 11/2002
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11/2002
corrector Sachiko Iwabuchi
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續千載和歌集

續千載和歌集卷第一
春歌上

前中納言定家

春立つこゝろをよみ侍りける


出づる日の同じ光に渡つ海の浪にも今日や春は立つらむ




入道前太政大臣

嘉元元年百首の歌奉りし時


治まれる御代の始に立つ春は雲の上こそのどかなりけれ




法皇御製

初のはるの心をよませ給うける


やま川の氷もとけて春かぜに年たちかへる水の志らなみ




前大納言爲家

弘長元年後嵯峨院に百首の歌奉りける時


立ち歸り春は來にけりさゞ波や氷吹きとく志賀のうら風




常磐井入道前太政大臣


朝日さす影ものどかに久かたの空より春の色や見ゆらむ




土御門院御製

題志らず


三笠山さすや朝日の松の葉にかはらぬ春の色は見えけり




順徳院御製


あら玉の年の明け行く山かづら霞をかけて春は來にけり




郁芳門院安藝

鶯の始めて鳴くをきゝて


うぐひすの鳴く音や頓て告げつらむ霞の衣春きたりとは




凡河内躬恒

題志らず


春の立つけふ鶯のはつ聲を鳴きて誰にとまづ聞かすらむ




紀貫之

三條右大臣の家の屏風に


春立ちて子日になれば打群れて孰の人か野べに來ざらむ




前中納言定家

千五百番歌合に


やま里は谷の鶯うちはぶき雪より出づる去年のふるこゑ




春の歌の中に


春日山みねの朝日の春の色に谷のうぐひす今や出づらむ




龜山院御製

位におましましける時うへのをのこども鶯の歌つかうまつりけるついでによませ給うける


谷深き古巣を出づるうぐひすの聲聞く時ぞ春は來にける




今上御製

おなじ心を


おしなべて空に知らるゝ春の色を己が音のみと鶯ぞなく




法皇御製

百首の歌めされしついでに


家居してきゝぞ慣れぬる梅の花さけるをかべの鶯のこゑ




八條院高倉

建保四年内裏の百番歌合に


鶯のふるすに誰かことづてし梅さく宿をわきてとへとは




源道濟

題志らず


今朝みれば春來にけらしわが宿のかきねの梅に鶯の鳴く




躬恒

延喜の御時、御屏風に


梅が枝になく鶯のこゑ聞けど山には今日も雪は降りつゝ




惟明親王

千五百番歌合に


古巣をば都の春に住みかへて花になれ行く谷のうぐひす




道因法師

題志らず


梅が枝に降積む雪を拂ふまにあやなく花の散りにける哉




後京極攝政前太政大臣

正治二年後鳥羽院に百首に歌奉りける時


春日野の草のはつかに雪消えてまだうらわかき鶯のこゑ




前大納言爲氏

寳治二年後嵯峨院に百首の歌奉りける時、春雪


かげろふの燃ゆる春日の淺緑かすめる空も雪は降りつゝ




入道前太政大臣

弘安元年龜山院に百首の歌奉りける時


淺みどりかすめる空は春ながら山風さむく雪は降りつゝ




院御製

春雪をよませ給うける


早晩と待たるゝ花は咲遣らで春とも見えず雪は降りつゝ




伏見院御製


春とだにまだしら雪のふるさとは嵐ぞさむき三吉野の山




後二條院御製

二月餘寒といへる心を


三吉野はなほ山さむしきさらぎの空も雪げののこる嵐に




後嵯峨院御製

寳治二年人々に百首の歌めしけるついでに、春雪をよませ給うける


春の立つあとこそ見ゆれ朝日影さすや岡邊に消ゆる白雪




前大納言爲家

住吉の社によみて奉りける百首の歌の中に、若菜を


下もえや先づいそぐらむ白雪の淺澤小野に若菜つむなり




常磐井入道前太政大臣

寛喜元年女御入内の屏風に


白妙の袖にわかなを摘みためて雪まの草の色を見るかな




法皇御製

雪中若菜といふ事をよませ給うける


袖の上にかつ降る雪を拂ひつゝ積らぬ先に若菜つむなり




入道前太政大臣

弘安の百首の歌奉りける時


若菜つむ袖こそぬるれけぬが上にふる野の原の雪間尋て




太政大臣

嘉元の百首の歌奉りし時、若菜


孰く共野べをばわかず白雪の消ゆる方より若菜をぞ摘む




大中臣能宣朝臣

謙徳公の家の屏風に春日野に若菜つめる所をよみける


あたらしき春くる毎に故郷の春日の野邊に若菜をぞつむ




清原深養父

若菜をよめる


押並べていざ春の野に交りなむ若菜摘來る人も逢ふやと




相模

弘徽殿の女御の歌合に


春のこし朝の原の八重霞日をかさねてぞ立ちまさりける




順徳院御製

松上霞といへる心を


見わたせば霞ぞたてる高砂の松はあらしの音ばかりして




藤原信實朝臣

洞院攝政の家の百首の歌に、霞


高砂のをのへの松のあさ霞たなびく見れば春は來にけり




常磐井入道前太政大臣


はる霞立ちにし日より葛城や高間の山はよそにだに見ず




前僧正道性

春の歌の中に


春はまだ霞に消えて時しらぬ雪とも見えずふじの志ば山




前大納言爲氏

寳治の百首の歌奉りける時、山霞


ころもでの田上山の朝がすみ立ち重ねてぞ春は來にける




前大納言爲世

百首の歌奉りし時


烟さへ霞そへけりなには人あし火たく屋の春のあけぼの




後京極攝政前太政大臣

正治二年百首の歌奉りける時


のどかなる春の光に松島やをじまの海士の袖やほすらむ




藤原信實朝臣

柳を


春はまづなびきにけりな佐保姫のそむる手引の青柳の糸




前中納言定家


淺みどり玉ぬきみだるあを柳の枝もとをゝに春雨ぞ降る




今上御製

雪中梅といへる心をよませ給うける


消えやすき梢の雪のひまごとに埋れはてぬ梅が香ぞする




藤原爲定朝臣

百首の歌奉りし時


けぬが上に降るかとぞ見る梅が枝の花に天ぎる春の沫雪




九條左大臣女

春の歌の中に


吹きまよふよその梢の梅が香にわが袖にほふ春の夕かぜ




二品法親王覺助


香をとめてとはれやすると我宿の梅の立枝に春風ぞ吹く




御嵯峨院御製

寳治の百首の歌めしけるついでに、梅薫風


ことならば色をも見せよ梅の花香は隱れなき夜はの春風




前大納言爲家

建長二年詩歌を合せられける時、江上春望


難波江や冬ごもりせし梅が香の四方にみちくる春の汐風




前中納言定家

名所の百首の歌奉りける時


梅が香やまづうつるらむかげ清き玉島川の水のかゞみに




讀人志らず

題志らず


我宿の梅咲きたりと告遣らばこてふに似たり散りぬ共よし





我宿に盛りに咲ける梅の花散るべくなりぬ見む人もがな




大藏卿隆博

弘安の百首の歌奉りける時


歸るさをよしや恨みじ春の雁さぞふる郷の人も待つらむ




前大納言良教

弘長三年内裏に百首の歌奉りける時、歸雁


別れけむこしぢの秋の名殘さへ思ひ知らるゝ春の雁がね




津守國助

題志らず


歸る雁行くらむかたを山の端の霞のよそに思ひやるかな




前大納言爲世

百首の歌奉りし時


おなじくば空に霞の關もがな雲路の雁をしばしとゞめむ




永福門院

歸雁の心を


歸るさの道もやまよふ夕暮のかすむ雲居に消ゆる雁がね




中宮


吉野山峰とびこえて行く雁のつばさにかゝる花の白くも




入道前太政大臣

百首の歌奉りし時


梓弓はるゆく雁も待て志ばし花なき里にこゝろひくとも




中務卿宗尊親王

題志らず


雪と降る花を越路の空とみて志ばしはとまれ春の雁がね




紀友則

寛平の御時、后の宮の歌合の歌


春雨の色は濃しとも見えなくに野べの緑を爭で染むらむ




後京極攝政前太政大臣

千五百番歌合に


野も山も同じみどりに染めてけり霞より降る木の芽春雨




贈從三位爲子

嘉元の百首の歌奉りし時、花


今よりは待たるゝ花のおもかげに立田の山の嶺のしら雲




前關白太政大臣

待花といへる心を


待つ程に日數ばかりは移り來て花よりさきの春ぞ久しき




津守國助


咲かぬより立慣れて社木の本に待ける程も花に知られめ




源兼氏朝臣


さのみやはまだ咲やらぬ花故に見まく欲しさの山路暮さむ




前大納言爲家


咲かぬより花は心に懸れども其かと見ゆる雲だにもなし




式子内親王

正治の百首の歌奉りける時


花を待つ面かげ見ゆるあけぼのは四方の梢にかをる白雲




和泉式部

題志らず


誰にかは折りても見せむ中々に櫻さきぬと我に聞かすな




鳥羽院御製


降る雨の洽く潤ふ春なれば花さかぬ日はあらじとぞ思ふ




柿本人丸


音に聞く吉野の櫻見に行かむ告げよ山もり花のさかりは




前大僧正慈鎭

千五百番歌合に


櫻花まだ見ぬさきにみよし野の山のかひある峰の白くも




伏見院御製

禁中盛花といへる心を


さくら花はやさかりなりもゝ敷の大宮人は今かざすらし




山階入道左大臣

寳治の百首の歌奉りける時、山花


少女子がかづらき山の櫻花こゝろにかけて見ぬ時ぞなき




權中納言公雄

百首の歌奉りし時


佐保姫の初花ぞめの袖の色もあらはれて咲く山ざくら哉




法印定爲

題志らず


花の色も一つにかすむ山の端の横雲にほふ春のあけぼの




左大臣

百首の歌奉りし時


やま櫻今日はさかりになりにけり昨日にまさる峯の白雲




前參議雅有

弘安の百首の歌奉りける時


山ざくら雲のはたての春かぜに天つ空なる花の香ぞする




常磐井入道前太政大臣

西園寺の八重櫻を見てよみ侍りける


山深み軒端にかゝる白雲の八重にかさなる花ざくらかな




宜秋門院丹後

正治の百首の歌奉りける時


吉野山かすみのうへにゐる雲や峰のさくらの梢なるらむ




皇太后宮大夫俊成

久安六年崇徳院に百首の歌奉りける時、花の歌


山ざくら咲くより空にあくがるゝ人の心や峰の志らくも




後京極攝政前太政大臣

家に花の五十首の歌よみ侍りける時


たづねてぞ花と知りぬるはつせ山霞のおくに見えし白雲




後一條入道前關白前左大臣

龜山院位におましましける時、所々の花見侍りて一枝折りて奉るとて奏し侍りける


君が爲知らぬ山路を尋ねつゝ老のかざしの花を見るかな




龜山院御製

御返し


たづねける知らぬ山路の櫻花けふ九重のかざしとぞ見る




前大納言爲世

嘉元の百首の歌奉りし時、花


行く先の雲は櫻にあらはれて越えつる峰の花ぞかすめる




續千載和歌集卷第二
春歌下

後嵯峨院御製

寳治の百首の歌めしけるついでに、惜花


かく計をしと思ふ日を暮れぬとて花みで歸る人さへぞうき




前大納言爲家

西園寺入道前太政大臣の家の三首の歌に、花下日暮といへる心を


ながしとも思はで暮れぬ夕日かげ花にうつろふ春の心は




源重之女

題志らず


春の日は花に心のあくがれて物思ふ人と見えぬべきかな




藤原清輔朝臣


思ひねの心や行きて尋ぬらむ夢にも見つる山ざくらかな




後法性寺入道前關白太政大臣

家に歌合し侍りけるに、花下明月


照る月も光をそへよ春ならでいつかは花と共に見るべき




順徳院御製

花の歌とてよませ給うける


ほの%\と明け行く山の櫻花かつ降り増る雪かとぞ見る




鎌倉右大臣

弓のわざし侍りけるに芳野山のかたをつくりて、山人の花見たる所をよみ侍りける


三吉野の山に入りけむ山人となりみてしがな花にあくやと




談天門院

山花といへる心を


芳野山まがふさくらの色なくばよそにや見まし峯の白雲




前大納言爲氏


嵐山ふもとの花のこずゑまで一つにかゝる峯のしらくも




六條内大臣

百首の歌奉りし時


しら雲のへだつるかたや山鳥の尾上に咲ける櫻なるらむ




正三位爲實


大原や小鹽のさくら咲きぬらし神代の松にかゝる白くも




萬秋門院

題志らず


咲きにけり外山の峰の櫻花たなびく雲のいろぞうつろふ




權大納言經繼

百首の歌奉りし時


白雲は立ちも別れで吉野山花のおくより明くるしのゝめ




平貞時朝臣

題志らず


三芳野やをのへの花に入る月の光をのこす山ざくらかな




前大納言俊光


霞みつるをちの高嶺もあらはれて夕日にみゆる山櫻かな




内大臣

百首の歌奉りし時


花のいろは猶暮れやらで初瀬山をのへの鐘の聲ぞ聞ゆる




邦省親王

題志らず


葛城や高間の霞立ちこめてよそにも見えぬ花のいろかな




入道前太政大臣

嘉元の百首の歌奉りし時、花


山ざくら花の外なるにほひさへ猶立ちそふは霞なりけり




二品法親王覺助

百首の歌奉りし時


咲きつゞく花はそれとも見えわかで霞のまより匂ふ白雲




津守國助

花の歌の中に


深山木のしげみの櫻咲きながら枝に籠れる花とこそ見れ




左大臣

徳治二年三月、歌合に


身の春をいつとか待たむ九重の御階の櫻よそにのみ見て




左近大將爲教

南殿の櫻を本府より植ゑ侍りける時大内の花のたねにて侍りければ


古への雲居の櫻たねしあれば又春にあふ御代ぞ知らるゝ




前關白太政大臣

百首の歌奉りし時


百敷や御階の花はいにしへにいつまで花の匂ひなりけむ




法皇御製

故郷花を


故郷にむかし忘れず咲く花はたが世の春を思ひ出づらむ




權中納言爲藤

今上いまだみこの宮と申し侍りし時講ぜられし五首の歌の中に、花


さゞ浪や志賀の故郷あれまくを幾世の花に惜みきぬらむ




後鳥羽院御製

五十首の歌よませ給うけるに


はなゆゑに志賀の故郷今日見れば昔をかけて春風ぞ吹く




入道二品親王性助

故郷花といふ事を


住み捨てし我が故郷を來て見れば花ばかりこそ昔 なりけれ


源兼氏朝臣

花の歌の中に


へだて行く昔の春のおもかげに又立ちかへる花のしら雲




中務

天徳四年、内裏の歌合に、櫻


年毎に來つゝわが見る櫻花かすみも今は立ちなかくしそ




源俊頼朝臣

堀河院の御時中宮の御方にて、かたをわかちて花を折りに遣はして、御前にたてならべて歌よませ給ひにけるによめる


吹く風を厭ひてのみも過すかな花見ぬ年の春しなければ




平宣時朝臣

題志らず


いきてこそ今年も見つれ山櫻はなに惜しきは命なりけり




前大納言爲家


花を見て慰むよりや三吉野の山をうき世の外といひけむ




安嘉門院四條

弘安の百首の歌奉りける時


いか計人を待たまし宿からに訪はれぬ花と思ひ知らずば




藻壁門院少將

花の歌の中に


よしさらば風にも散りね櫻花みる我ならで訪ふ人もなし




讀人志らず


おのづから花のをりのみ訪ふ人の心の色をいかゞ頼まむ




權大納言長家

白川の花見侍りて次の日よみ侍りける


立ち歸りいざ又行かむ山ざくら花の匂のうしろめたさに




白川院御製

題志らず


峰つゞき匂ふ櫻をわが物と折りてや來つる春の日ぐらし




左京大夫顯輔


をしむとていくかもあらじ山櫻心のまゝに折りて歸らむ




野宮左大臣

千五百番歌合に


如何ばかり待つも惜むも花ゆゑは人の心をみよし野の山




民部卿實教

前大納言爲世すゝめ侍りし春日の社の三十首の歌の中に


誰も皆花にかへさや忘るらむ今日は山路に逢ふ人もなし




法印定爲

前中納言定房の家にて、花下日暮といへる心をよみ侍りける


尋ねつる志るべと頼む山人の歸るも知らず花を見るかな




順助法親王


濡れつゝもあかずぞ見つる山ざくら薫る軒端の花の雫に




法印長舜

花の歌の中に


散るをこそうしともかこて咲く花の匂はさそへ春の山風




平宗宣朝臣


あだに咲く花のつらさに習はずは散らぬより先物は思はじ




藤原隆信朝臣


あだに散る物からいかで櫻花のどけき春の色を見すらむ




前大納言爲氏


風のまに散らずはありとも山櫻いくかを花の盛とは見む




權中納言通俊

寛治八年高陽院の歌合に、櫻


春風は吹くとも散るなさくら花はなの心を我になしつゝ




花山院御製

題志らず


霞立つやまの櫻はいたづらに人にも見えで春や過ぐらむ




太宰權帥爲經


移ろはでしばしはまがふ山櫻ちればよそなる峯のしら雲




前攝政左大臣

嘉元の百首の歌奉りし時、花


いとはじよ空に嵐のさそはずば四方の梢の花を見ましや




今上御製

落花の心をよませ給うける


あだなりと移ろふ花に喞つ哉ちらぬを風も誘ひやはする




仁和寺二品法親王守覺

花の歌の中に


花と見るよそめばかりの白雲もはらふはつらき春の山風




前中納言定家

正治二年九月、十首歌合に、落花


わがきつる跡だに見えず櫻花ちりのまがひの春の山かぜ




辨乳母

小野皇太后宮にまうでけるに、道なりける花は散りて、かしこには盛なりければよみ侍りける


都には散りにしものを山櫻われを待つとや風もよきけむ




中納言朝忠

天徳四年内裏の歌合に、櫻


あだなりと豫て知りにき櫻花惜む程だにのどけからなむ




貫之

題志らず


散る時はうしと見れども忘れつゝ花に心の猶とまるかな




讀人志らず


手折りても猶うつろはゞ櫻ばな心づからのうさや忘れむ




參議雅經

建保四年後鳥羽院に百首の歌奉りける時


春風は花ちるべくも吹かぬ日におのれうつろふ山櫻かな




津守國助

名所の歌よみ侍りける中に


櫻花散らでもおなじ手向山ぬさとな吹きそ春のゆふかぜ




九條左大臣

惜落花といへる心を


散る花のあかぬ色香を身にかへてさも慕はるゝ山櫻かな




入道前太政大臣

百首の歌奉りし時


慣れてみる老木の花よ散り易き我が涙には習はざらなむ




前關白太政大臣

雨後落花を


あめはるゝ軒端の花に風過ぎて露もたまらず散る櫻かな




中務卿恒明親王

花の歌の中に


立歸り風をのみ社恨みつれ吹かずば花も散らじと思へば




俊惠法師

後法性寺入道前關白の家の歌合に、花下明月


花よりも月をぞ今宵惜むべき入なば爭で散るをだに見む




俊頼朝臣

修理大夫顯季人々に花の十首の歌よませ侍りけるに


をしとだにいはれざりけり櫻花ちるを見るまの心惑ひに




大納言經信

題志らず


春風の吹きまふ時は櫻ばな散りぬる枝に咲くかとぞ見る




前内大臣


吉野川花の志がらみかけてけり尾上の櫻いまや散るらむ




從三位氏久

山川に花の流るゝを見て


散る花の浪を岩根に吹きこして風にぞまさる山川のみづ




常磐井入道前太政大臣

西園寺の花の盛に申し遣しける


おもひやる心の花も池水にうつるばかりの色や見ゆらむ




西園寺入道前太政大臣

返し


今日來ずば明日とも待たじ櫻花徒らにのみ散らば散らなむ




源兼康朝臣

花纔殘といふ事を


明日は又いかに眺めむ散果てぬ今日だにつらき花の梢を




源邦長朝臣

題志らず


吹く風を恨みもはてじ山櫻こゝろと散らば花の名も惜し




平貞時朝臣


なれて見る我が名殘をば惜までや誘ふ嵐に花の散るらむ




平齊時


昨日見し梢の花はこのねぬる朝げの風にふれる志らゆき




前大僧正實超


分きてなどおなじ梢の春風にかたえ殘して花の散るらむ




藤原泰宗

池上落花をよめる


散りのこるみぎはの櫻かげ見えて花の波たつ春風ぞ吹く




津守國冬

嘉元の百首の歌奉りし時、花


さくら花ちり殘るらし吉野山あらしの跡にかゝる志ら雲




法印定爲


風わたる雲のはやしの山櫻はなのところも雪と降りぬる




前大納言爲氏

文永二年内裏の十首の歌に、落花似雪といふ事を


雪とのみ降りこそまされ山櫻うつろふ花の春の木のもと




伏見院御製

硯のふたに櫻を入れて入道前太政大臣につかはされける


散りまよふ面影をだにおもひやれ尋ねぬ宿の花の志ら雪




入道前太政大臣

御返し


訪はでしも見るぞかひあるよそ迄も散來る庭の花の白雪




後京極攝政前太政大臣

正治の百首の歌奉りける時


今日も又とはで暮れぬる故郷の花は雪とや今は散るらむ




後鳥羽院御製

題志らず


吉野山くもらぬ雪と見るまでに有明の空に花ぞ散りける




從二位家隆

前大納言爲家の家に百首の歌よみ侍りけるに


かづらきや高間の嵐吹きぬらし空に知らるゝ花の志ら雪




修理大夫顯季

承暦二年四月内裏の歌合に、櫻


尋ねこぬさきには散らで山櫻みる折にしも雪と降るらむ




常磐井入道前太政大臣

月花門院へ奉りける


山里は訪ひ來る人の跡もなし降りつむ花は雪と見れども




藤原爲道朝臣

永仁二年三月内裏にて人々三首の歌よみ侍りける時、山路落花を


散らぬまに越ゆべかりける山路共跡つけ難き花に社しれ




伏見院御製

寄風花といへる心をよませ給うける


うつろふも心づからの花ならばさそふ嵐をいかゞ恨みむ




藻壁門院少將

花の歌の中に


哀れなど風に心のなき世とて春咲く花を散らしはつらむ




西園寺入道前太政大臣


袖の上にあかぬ色香は留めおけ暮れなば春の花の形見に




大江千里

落盡閑花不見人といへる心を


跡たえて靜けき宿に咲く花のちりはつる迄みる人ぞなき




讀人志らず

謙徳公の家の歌合に


うぐひすの羽風に花や散りぬらむ春暮れ方の聲に鳴く也




今上御製

みこの宮と申し侍りし時よませ給うける


さのみやは春の深山の花を見むはやすみ昇れ雲の上の月




前大納言爲世

百首の歌奉りし時


老いてこそ涙も曇れ春の夜の月はいつより霞みそめけむ




二品親王覺助


かすむ夜の月にぞさらに忍ばるゝ忘るばかりの春の昔は




平時村朝臣

春月を


春の夜のかすみに曇る空なれば涙いとはで月や見るべき




後深草院少將内侍


くもるとは見えぬ物から久方の空にかすめる春の夜の月




讀人志らず


つらしとは恨みざらまし春の夜の月を隔てぬ霞なりせば




前大納言爲氏

弘長元年百首の歌奉りける時、同じ心を


見ずもあらず見もせぬ影の中空に綾なく霞む春の夜の月




伏見院御製

春曉月といへる事を


月影を霞にこめて山の端のまだ明けやらぬしのゝめの空




躬恒

延喜の御時の御屏風に


ひとりのみ見つゝぞ忍ぶ山吹のはなの盛にあふ人もなし




前大納言爲家

寳治の百首の歌奉りける時、籬山吹


山吹の花こそいはぬいろならめもとの籬を問ふ人もがな




土御門院小宰相


暮れぬとて人もとまらぬ籬には咲く山吹の花の名もうし




法皇御製

同じ心をよませ給うける


さくら花散りにし後は山ぶきの咲ける籬にのこる春かな




權中納言公雄

嘉元の百首の歌奉りし時、山吹


暮果つる春の名殘を惜しとだにえやはいはねの山吹の花




權僧正覺圓

春の歌の中に


行く春を惜しとはいはぬ色ながら心にうつる山吹のはな




後鳥羽院御製


山吹の花いろ衣さらすてふ垣根や井手のわたりなるらむ




前大納言爲氏

弘安元年百首の歌奉りける時


行く春はさてもとまらで山ぶきの花にかけたる井手の柵




法皇御製

藤埋松といへる心をよませ給ひける


松が枝はみどりすくなく埋れてむらさきかゝる池の藤浪




右近大將房實

題志らず


いく春も花のさかりを松が枝に久しくかゝれ宿の藤なみ




三條入道内大臣


二葉より契りおきてや藤浪の木高き松にかゝり初めけむ




隆信朝臣


おきつ風吹くとも見えぬ高砂の尾上の松にかゝる藤なみ




伊勢

海づらなる家に藤の花のさけりけるをよめる


我が宿の影とぞ頼む藤の花立ちよりくとも浪に折らるな




中納言朝忠

天徳四年内裏の歌合に、藤


むらさきに匂ふ藤浪うちはへて松にぞ千世の色も懸れる




平兼盛

屏風の繪に、松に藤のかゝれる所


ときはなる花とぞ見ゆる我が宿の松に木高く咲ける藤浪




大中臣能宣朝臣

題志らず


櫻花ちりだにせずば大かたの春を惜しとは思はざらまし




藤原景綱


行く春の日數に花も移り來て殘りすくなき山ざくらかな




山階入道左大臣

寳治二年百首の歌に、惜花


如何にして暫しとゞめむ櫻花ちりなばなげの春の日數を




右大臣

題志らず


一かたの別れをせめてとゞめばや花と春との同じ名殘に




關白内大臣

百首の歌奉りし時


行く春も猶木の本に立ちとまれ庭の櫻のちりのまがひに




前權僧正雲雅

暮春の心を


散りかゝる花を誘ひて行く水の返らぬ浪に春ぞ暮れぬる




權大納言兼季


吹きおろす嵐の山に春暮れてゐせきにむせぶ花のしら浪




西園寺入道前太政大臣

暮春の心を


散りかゝる花の影見し山の井のあかでも春の暮にける哉




後鳥羽院御製

人々に五十首の歌めしけるついでに


徒らに春くれにけり花の色の移るを惜むながめせしまに




續千載和歌集卷第三
夏歌

衣笠内大臣

寳治の百首の歌奉りける時、首夏


春をのみをしみし程に夏衣たつ日に早くなりにけるかな




和泉式部

四月一日によみ侍りける


昨日をば花の陰にて暮してき今日こそいにし春は惜けれ




赤染衞門

卯月の頃遲櫻を人の許に遣はすとて


まだ散らぬ花に心を慰めて春過ぎぬともおもはざりけり




左京大夫顯輔

永久四年四月鳥羽殿の歌合に、卯花を


朝日山ふもとの里の卯の花をさらせる布とおもひける哉




二條院讃岐

千五百番歌合に


神まつる卯月の花も咲きにけりやま時鳥ゆふかけて鳴け




式乾門院御匣

弘安の百首の歌奉りける時


住の江の松は久しきほとゝぎす遠里小野に一こゑもがな




讀人志らず

題志らず


はつ音をばわが方に鳴け杜鵑こと浦に待つ人はありとも




在原元方

亭子院の歌合に


み山出でむまづ初聲は郭公夜ふかくまたむ我が宿に鳴け




前大納言公任

題志らず


ほのかにも聞かぬ限は時鳥まつ人のみぞ寐られざりける




後深草院少將内侍

寳治の百首の歌奉りける時、待時鳥


時鳥初音待たるゝ時にこそみじかき夜半も明しかねけれ




關白家新少將

同じ心を


明けやすき夏の夜なれど郭公まつに幾たび寐覺しつらむ




前參議雅孝

嘉元の百首の歌奉りし時、郭公


待ちかねてまどろむ夜はの時鳥夢ならで聞く一聲もがな




前右大臣

百首の歌奉りし時


我ならぬ人にもかくや時鳥さのみ初音のつれなかるらむ




前關白太政大臣

嘉元の百首の歌奉りし時、郭公


郭公人もきかずばつれなさを我が身一つと恨みざらまし




前大納言師重

夏の歌の中に


人ごとに聞きつと語る郭公など我が爲になほ待たるらむ




皇后宮


尋ねばや志のぶの山のほとゝぎす心の奥の事やかたると




慈道法親王


ほとゝぎす猶急がるゝ初音かな都の人の聞かぬさきにと




今出川院近衛

題志らず


あだ人のいつの契にならひけむ待たれてとはぬ時鳥かな




伏見院御製


頼めおく時とはなしに郭公ゆふべはわきて猶まさるらむ




法橋顯昭


はつ聲をさてもや聞くと郭公またで年ふる人にとはゞや




三條入道左大臣


待つ程の心もくるしほとゝぎすいかで思の外に聞かまし




平時元


つれなきを習ひになさで時鳥今年は早くはつ音なかなむ




藤原泰宗


ほとゝぎす五月まつ間の忍びねも顯はれぬべき村雨の空




前中納言季雄


我にこそつれなしとても郭公かたぶく月に音をば惜まじ




權大納言兼季


あり明の月には待たじ郭公つれなき影にならひもぞする




前大納言俊定

嘉元の百首の歌奉りし時、郭公


つれなさをいつと頼みて郭公猶ありあけの月に待つらむ




伏見院御製

おなじ心を


つれなさを月にぞかこつ郭公まつにむなしき有明のそら




藤原基俊

題志らず


唐衣たつ田の山のほとゝぎすうらめづらしき今朝の初聲




安法法師


聞初むるかひ社なけれ時鳥またれぬ夜はゝあらじと思へば




伊勢


郭公夜ふかき聲は月まつと起きていをねぬ人ぞ聞きける




寂蓮法師

曉聞郭公といへる心を


ほとゝぎす有明の月の入り方に山の端出づる夜はの一聲




源道濟

人の扇の繪に郭公きゝたる所をよませ侍りけるに


郭公なくこゑ聞けば山里につねよりことに人ぞ待たるゝ




法眼行濟

夏の歌の中に


山ふかくたづねて入れば郭公わけつる雲の跡に鳴くなり




權中納言爲藤


待たれつる身にこそ頼め郭公かたらふ聲は誰となけれど




後嵯峨院御製

寳治の百首の歌めしけるついでに、聞郭公


我も又いざ語らはむほとゝぎす待ちつる程の心づくしを




藤原爲定朝臣

前大納言爲世よませ侍りし春日の社の卅首の歌の中に


なほざりに鳴きてや過ぐる郭公まつは苦しき心づくしを




平宣時朝臣

題志らず


ほとゝぎす一聲とこそ思ひしに待ち得てかはる我が心哉




法印長舜


初聲の後はなか/\郭公鳴かぬたえまぞなほ待たれける




津守國助女


いづくにも待たれしものを今は又なかぬ里なき時鳥かな




二品法親王覺助


我が爲は初音なれどもほとゝぎす誰か二度今は聞くらむ




法皇御製

百首の歌めされしついでに


鳴き過ぐるならしの岡の郭公ふる郷人にことやつてまし




法印定爲


妻ごひを忍びかねてや郭公今日はいはせの森に鳴くらむ




辨内侍

永承四年祐子内親王の家の歌合に


いつしかと待ちつるよりも時鳥聞きてぞいとゞ靜心なき




西行法師

題志らず


待つ事は初音までかと思ひしに聞きふるされぬ時鳥かな




京極入道前關白太政大臣

永保元年内裏にて、暮天時鳥を


人とはでおのれと名のる時鳥暮れ行く空を過ぐる一こゑ




太宰大貳高遠

夜郭公といふ事を


まどろまば聞かずやあらまし時鳥さも夜深くも鳴渡る哉




權中納言通俊

承暦二年内裏の後番の歌合に郭公をよみ侍りける


あけばまづ人に語らむ時鳥夜ふかく宿を鳴きて過ぐなり




禎子内親王家攝津

おなじ心を


夢かとぞおどろかれぬる郭公又もきなかぬ夜はの一こゑ




上西門院兵衞

後徳大寺左大臣のもとより山近きすみかは時鳥も人よりさきに聞きつらむといひ遣して侍りければ


明けがたに初音は聞きつ郭公待つとしもなき老の寢覺に




前參議雅有

夏の歌の中に


鈴鹿山あけがたちかき天の戸をふり出でゝ鳴く郭公かな




前關白左大臣近衛

寢覺に郭公を聞きて


明け方に啼きてぞ來ぬる郭公つれなき夜はと何恨みけむ




前大僧正良信

曉時鳥を


曉の鳥の八こゑに一聲を鳴きそへて行くほとゝぎすかな




伏見院新宰相

題志らず


郭公あかず聞きつる名殘より寢覺の後はまたぞ寐られぬ




永福門院


ほとゝぎす聲もたかねの横雲に鳴き捨てゝ行く曙のそら




山階入道左大臣

弘長二年龜山院に十首の歌奉りける時、野時鳥


郭公一聲ゆゑに武藏野の野をなつかしみ過ぎもやられず




前中納言定家

正治の百首の歌奉りける時


時鳥しばしやすらへすがはらや伏見の里のむらさめの空




光明峰寺入道前攝政左大臣

家の歌合に、羇旅郭公といふ事を


休らはゞ暫しは聞かむ時鳥芦のまろ屋のかりねなりとも




源邦長朝臣

題志らず


難波潟葦ふく小屋の軒端にも今日や菖蒲の隙なかるらむ




法眼慶融

五月雨


かりにふく蓬あやめの一もとも軒端にかれぬ五月雨の空




祝部成茂

寳治の百首の歌奉りける時、早苗


五月きぬみとしろ小田にしめはへて神の宮人早苗とらなむ




堀河右大臣


時鳥しのばぬこゑを聞くよりや山田の澤に早苗とるらむ




野宮左大臣

千五百番歌合に


足引の山した水をひきかけし裾わの田井に早苗とるなり




法印定爲

法眼行濟すゝめ侍りし北野の社の十八首の歌に


見渡せば鳥羽山小田の松かげに緑をそへてとる早苗かな




津守國道

二品法親王の家の五十首の歌に、早苗


下草はうゑぬに茂るおほあらきの杜の浮田に早苗とる なり


前中納言經繼

題志らず


まぢかくも花橘のにほふかなむかしはとほき宿の軒端に




皇太后宮大夫俊成

百首の歌よみ侍りける中に


ふる里にいかに昔を忍べとて花たちばなの風に散るらむ




基俊

蘆橘暮薫といへる心を


袖ふれしむかしの人ぞ忍ばるゝ花たちばなのかをる夕は




平雅貞

題志らず


風かよふ夜はの寐覺の手枕に袖の香そへて匂ふたちばな




權大納言定房

百首の歌奉りし時


たちばなの影ふむ道を過ぎやらで暫し待たるゝ時鳥かな




後鳥羽院御製

五十首の歌よませ給うけるに


ほとゝぎす心して鳴けたちばなの花ちる里の夕ぐれの空




贈從三位爲子

嘉元の百首の歌奉りし時、郭公


時鳥菖蒲のねにもあらなくに五月をかけてなど待たる覽




皇太后宮大夫俊成

久安の百首の歌奉りける時


五月こそなれが時なれ郭公いつをまてとて聲をしむらむ




昭慶門院一條

嘉元の百首の歌奉りし時、郭公


ほとゝぎす己が五月の雨晴れて村雨まよふ空に鳴くなり




祝部成賢

五月雨をよめる


五月雨に烟たえても海士人のなほ汐たるゝ袖のうらなみ




津守國助


尋ねばやいはでの山の谷水も音たてつべき五月雨のころ




前大納言爲世

河五月雨といふ事を


山川の岩にせかるゝ音もなしうへ越す波の五月雨のころ




百首の歌奉りし時


山の井も増るみかさに濁るらし影さへ見えぬ五月雨の頃




權津師實性

池五月雨を


池水のみぎはも見えずなりにけり庭に浪こす五月雨の頃




大江宗秀

題志らず


日數經て浪やこすらむ五月雨は雲間も見えずふるの高橋




高階宗成朝臣


五月雨に流れて下る山川のみをの杣木はよどむ瀬もなし




前關白太政大臣

百首の歌奉りし時


最上川みかさまさりて五月雨の暫しばかりも晴れぬ空哉




前大納言爲家

題志らず


五月雨は行くさき深しいはた河渡る瀬ごとに水まさりつゝ




光明峯入道前攝政左大臣

家の百首の歌に、山五月雨


龍田河みぎはの浪も立ちそひぬ三室の山の五月雨のころ




前大僧正道昭

同じ心を


水まさるふもとの河の音そひて猶峰ふかき五月雨のくも




權中納言爲藤

百首の歌奉りし時


天の河まさるみかさは知らねども雲の浪たつ五月雨の空




前中納言定家

名所の百首の歌奉りける時


五月雨は天のかぐ山空とぢて雲ぞかゝれる峰のまさか木




皇太后宮大夫俊成女

千五百番歌合に


見ても猶あかぬ夜のまの月影を思ひ絶えたる五月雨の空




大江貞重

名所夏月といふことを


明け易き空にぞいとゞなぐさまぬ姨捨山のみじか夜の月




前大納言爲氏

弘長三年内裏の百首の歌奉りける時、夏曉月


夏草のあかつきおきの露のまに移れば明くる山の端の月




後嵯峨院御製

寳治の百首の歌めしけるついでに夏月をよませ給ひける


夏の夜もかげぞ凉しき久方の月のいづくに秋やどるらむ




中原師員朝臣

鵜河を


夏の夜の明け行くほども早瀬さす鵜河の篝影しらむなり




前内大臣


鵜飼舟くだすほどなき短夜の川瀬に殘るかゞり火のかげ




入道前太政大臣


大井河鵜舟くだせばあかつきの月は空にぞさし昇りける




前大納言爲世

嘉元の卅首の歌奉りし時


鵜飼舟せゞさしのぼる白浪にうつりてくだる篝火のかげ




順徳院御製

題志らず


朝な/\みつの上野にかる草の昨日の跡はかつ茂りつゝ




躬恒


夏草は日毎に深くなりゆけどかれにし人のとはぬ宿かな




參議雅經

建保五年四月庚甲、五首の歌に、夏曉


夏草の露わけごろもこの頃もあかつきおきは袖ぞ凉しき




法皇御製

百首の歌めされしついでに


なつ草の花の枝ごとに置く露を五月の玉にぬきぞとゞめむ




從三位宣子


茂りあふ夏野の草の深ければ分行く人ぞよそに知られぬ




院御製

夏草をよませ給うける


今は身の事しげからぬ宿にしも猶みちとづる庭のなつ草




龜山院御製


ふみわけて問ふべき人もなき身には宿から茂る庭の夏草




山本入道前太政大臣女


淺みどり草の若菜とみし野邊のはや夏ふかく茂る頃かな




藤原行房朝臣

前大納言爲世人々すゝめてよませ侍りし春日の社の三十首の歌の中に


夏草のしげみにまじる荻の葉は下にや秋の風を待つらむ




院御製

螢をよませ給ひける


風そよぐあしまの螢ほの見えて浪のよる待つ程ぞ凉しき




前大納言俊定

嘉元の百首の歌奉りし時、おなじ心を


夏ふかく茂る難波の芦間にもさはらで行くは螢なりけり




贈從三位爲子


大井河そらにもゆるやかゞり火にあらぬ螢の思なるらむ




前大納言爲氏

弘長の内裏の百首の歌奉りける時、沼螢


苅りてほすあさかの沼の草の上にかつ亂るゝは螢 なりけり


津守國冬

百首の歌奉りし時


螢とぶおぼろの清水かすかにもしらばや己がもゆる思を




前大納言爲家

文永八年七夕、白川殿にて人々題をさぐりて百首の歌よみ侍りける時、蚊遣火


蚊遣火の下やすからぬ烟こそあたりの宿も猶くるしけれ




西宮左大臣

夏の歌の中に


もろともに見む人もがな獨のみをればかひなき床夏の花




藤原惟成

寛和二年、内裏の歌合に


心して植ゑしもしるく撫子の花のさかりを今も見るかな




衣笠内大臣

弘長の百首の歌奉りける時、夕立


此の里もふりぬと思ふ夕立の曇るばかりに過ぎにける哉




從二位行家


なる神の音にもしるし卷向の檜原の山のゆふだちのそら




前大納言爲氏

文永二年七月白河殿にて人々題をさぐりて七百首の歌つかうまつりける時、湊夕立といふ事を


沖つ浪音吹きたてゝしほ風のみなとにかゝる夕だちの雲




後嵯峨院御製

寳治の百首の歌めしけるついでに、夕立


かきくらす空とも見えず夕立の過行く雲に入日さしつゝ




前參議能清

弘安の百首の歌奉りける時


一むらはやがて過ぎぬる夕立のなほ雲殘るそらぞ凉しき




入道前太政大臣

百首の歌奉りし時


夕立は過ぎぬる峰のむらくもにしばしほのめく宵の稻妻




祝部成久

夕立を


程もなく晴れつる方に移りきて日影にかゝる夕立のくも




中臣祐賢

題志らず


秋きぬといはぬばかりぞ夏衣すそ野のはらの楢のした風




前大納言爲氏

弘長の百首の歌奉りける時、納凉


凉しさは立ちよるからにしられけり秋風ちかき衣手の杜




宇治入道前關白太政大臣

題志らず


夕されば志のゝ小笹を吹く風のまだきに秋の景色なる哉




前中納言定家

建保四年百首の歌奉りける時


夏衣かとりの浦のうたゝねに浪のよる/\かよふ秋かぜ




上西門院兵衛

久安の百首の歌奉りける時


夏衣かさぬばかりに凉しきは結ぶいづみに秋や立つらむ




源兼氏朝臣

山階入道左大臣の家の十首の歌に、納涼


せき入るゝ庭の清水はそれながら秋を心に任せやはせぬ




爲道朝臣

夏の歌の中に


夕暮の木の志た風に雨過ぎて露もたまらぬ蝉の羽ごろも




寂蓮法師


志ばしだに絶えまもなきは夏山の梢につゞく蝉のもろ聲




大僧正道順

百首の歌奉りし時


遠近の木ずゑに蝉のこゑはして山路凉しき松の志たかげ




關白内大臣


茂合ふ軒端の梢あけたては蝉のをりはへ鳴かぬ日はなし




前關白左大臣押小路


みそぎする夜はの河浪音更けて明けぬより吹く袖の秋風




昭訓門院春日


わきて又凉しかりけり御手洗や御祓に更くる夜はの河風




冷泉太政大臣

寳治の百首の歌奉りける時、六月祓


底清き河瀬の水のあさの葉に白ゆふかけて御祓をぞする




皇太后宮大夫俊成

百首の歌よみ侍りける中に


水上に秋や立つらむ御祓河まだよひながら風のすゞしき




後鳥羽院御製

千五百番歌合に


御祓河瀬々の玉藻の水隱れて志られぬ秋や今宵立つらむ




續千載和歌集卷第四
秋歌上

入道前太政大臣

百首の歌奉りし時、初秋の心を


いつしかと片敷く袖に置く露のたまくら凉し秋のはつ風




中務卿宗尊親王

おなじ心を


今朝みれば露ぞ隙なき芦のやのこやの一夜に秋や來ぬ覽




惟明親王

千五百番歌合に


昨日より荻の下葉に通ひ來て今朝あらはるゝ秋のはつ風




光明峰寺入道前攝政左大臣

題志らず


いつのまに秋風立ちて大ともの三津の濱松音まさるらむ




前中納言爲相

百首の歌奉りし時


天の河水かげ草のいく秋か枯れなで年のひとよ待つらむ




中納言家持


七夕のふなのりすらし天の河きよき月夜に雲立ちわたる




山邊赤人


彦星と七夕つめとこよひあふ天の河原になみ立つなゆめ




讀人志らず

亭子院の歌合に


天の河わたりてのちぞ七夕のふかき心もおもひ知るらむ




前大納言爲家

龜山院位におましましける時七月七日人々に七首の歌めされけるによみて奉りける


天の河絶えじとぞ思ふたなばたの同じ雲居にあはむ限は




後京極攝政太政大臣

家の六百番歌合に、乞巧奠


星合の空のひかりとなるものは雲居の庭に照すともし火




前大納言有房

七夕の心を


織女の露の契りの玉かづらいく秋かけてむすび置きけむ




選子内親王

八日前栽の露置きたるを折りて法成寺入道前攝政のもとにつかはすとて


露置きてながむる程を思ひやれ天の河原のあかつきの空




入道前太政大臣

弘安の百首の歌奉りける時


明けゆけば河瀬の浪の立ち歸り又袖ぬらす天の羽ごろも




源兼氏朝臣

題志らず


七夕の雲の衣をふく風にそでのわかれは立ちもとまらず




前中納言定房

閏月七夕といふ事を


契ありておなじ七月の數そはゞ今夜もわたせ天の川ぶね




後鳥羽院御製

太神宮に奉らせ給ひける五十首の歌の中に


朝露のをかの萱原山かぜにみだれてものは秋ぞかなしき




題志らず


わするなよけふは昔の秋までもこのゆふぐれの荻の上風




前中納言定家

正治の百首の歌奉りける時


幾かへりなれてもかなし荻原や末こす風の秋のゆふぐれ




二條院讃岐

千五百番歌合に


さびしさに秋の哀をそへてけりあれたる宿の荻の上かぜ




皇太后宮大夫俊成

述懷の百首の歌よみ侍りけるに、荻


我袖は荻の上葉の何なれやそよめくからに露こぼるらむ




花山院御製

寛和元年の内裏の歌合に、露


荻の葉における白露玉かとて袖に包めどたまらざりけり




權中納言公雄

嘉元の百首の歌奉りし時、荻


わきて猶夕べは露の荻の葉になみだもそよと秋風ぞふく




法眼慶融

題志らず


吹きむすぶ荻の葉分に散る露を袖までさそふ秋のゆふ風




入道前太政大臣

弘安の百首の歌奉りける時


夕されば野邊の淺茅に吹く風の色こそ見えね露ぞこぼるゝ




前大納言爲氏

弘安八年八月十五夜の卅首の歌に、秋風入簾


村雨の野分のつゆの玉すだれ袖に吹きまく秋のゆふかぜ




伏見院御製

題志らず


村さめに桐の葉落つる庭の面の夕べの秋を問ふ人もがな




後二條院御製


宿ごとの夕ぐれとはむ秋といへば我にかぎらず物や思ふと




前中納言定資

閑中秋夕といふ事を


さびしさをかねて習はぬ宿ならば秋の夕をいかで忍ばむ




二品法親王覺助

秋の歌の中に


今更に何かうしともわきていはむ思ひのみそふ秋の夕暮




前大納言經長女


物思はぬ人はよそにやながむらむうき身一つの秋の夕暮




平久時


いかにせむ物思ふ袖の涙だにほさで露そふあきの夕ぐれ




太政大臣

嘉元の百首の歌奉りしとき


おのづから涙ほすまも我は袖に露やはおかぬ秋の夕ぐれ




後久我太政大臣

建暦二年内裏内裏の詩歌合に、水郷秋夕


水無瀬山夕かげ草の下つゆや秋なく鹿のなみだなるらむ




遊義門院

題志らず


秋にあへぬ袖の涙や草葉までこのごろ茂き露となるらむ




前中納言定家

名所の百首の歌奉りける時


結びおきし秋のさが野の庵より床は草葉の露に慣れつゝ




九條右大臣

麗景殿の薄にむすび付け侍りける


白露の奥より見つる花ずゝきほにいでゝ風に靡きぬる哉




津守國道

題志らず


花ずゝきたがなみだともしら露の袖にみだるゝ秋の夕風




前僧正道性

故郷秋蘭といふ事を


藤袴何匂ふらむすみ捨てゝ野となる庭はたれか來て見む




源公忠朝臣

天慶八年の御屏風に


秋の野に色々さける花見れば歸らむ程ぞいつと知られぬ




讀人志らず

夕ぐれがたにちひさきこに鈴虫を入れて紫の葉えふに包みて萩の花にさしてさるべき所の名のりをせさせて齋院にさし置かすとてその包紙に書き付けたりける


しめの内に花の匂を鈴虫の音にのみやは聞きふるすべき




選子内親王

返し


色々の花はさかりに匂ふとも野原の風のおとにのみ聞け




前左兵衛督教定

題志らず


我が宿の庭の秋萩咲きにけり朝おく露のいろかはるまで




邦省親王


高圓の萩さきぬらし宮人の袖つきごろもつゆぞうつろふ




從三位氏久


色ふかくうつりにけりな狩人の眞袖にわくる萩の朝つゆ




從二位家隆

建永元年和歌所の三首の歌に、朝草花


我が袖を今朝もほしあへず飛鳥川ゆきゝの岡の萩の白露




讀人志らず

題志らず


武藏野は猶行く末も秋はぎの花ずりごろも限りしられず




萬秋門院


朝な/\おくと見しまに白菅の眞野の萩原つゆぞ移ろふ




藤原爲定朝臣

野萩を


袖にこそみだれそめけれ春日野の若むらさきの萩が花摺




法皇御製

百首の歌めされしついでに


高圓の野べの秋風吹くたびにたもとにうつす萩が花ずり




僧正行意

名所の百首の歌奉りける時


たかまとの野路の秋萩咲きにけり旅行く人の袖匂ふらし




大納言旅人

題志らず


さしすぎの栗栖の小野の萩の花ちらむ時にし行て手向けむ




後徳大寺左大臣


思ふどちいざ見に行かむ宮城野の萩が花ちる秋の夕ぐれ




壬生忠岑


秋はぎのしたにかくれて啼く鹿の涙や花の色を染むらむ




相模

永承五年祐子内親王の家の歌合に


露むすぶ萩の下葉やみだるらむ秋の野原に男鹿なくなり




小辨

鹿をよめる


さをじかの妻戀ひ増る聲すなりまのゝ萩原盛りすぐらし




前關白左大臣押小路

百首の歌奉りし時


紫のゆかりの色をたづねてや萩さく野邊に鹿のなくらむ




忠房親王


男鹿なく萩の錦の唐ごろもきつゝなれしに妻や戀ふらむ




從三位爲繼

秋の歌の中に


秋草の色づく見ればかた岡のあしたの原に鹿ぞ鳴くなる




正三位知家

名所の百首の歌奉りける時


初瀬山木の葉色づく秋風にまづ寐ねがてのさをじかの聲




法印定圓

題志らず


夕さればこぬ妻よりも秋風をつらき物とや鹿の鳴くらむ




前中納言經繼

嘉元の百首の歌奉りし時、鹿


我だにも音にたてつべき夕暮をさぞ妻戀に鹿は鳴くらむ




法印定爲


高砂の尾上の鹿はつれもなき松をためしに妻や戀ふらむ




行念法師

題志らず


秋を知る鹿の聲のみ高砂の松のあらしも吹かぬ日はなし




中務卿宗尊親王


小倉山峰の秋風ふかぬ日はあれども鹿の鳴かぬ夜はなし




後堀河院民部卿典侍

月下鹿を


小男鹿の峰の立ちどもあらはれて妻とふ山を出づる月影




前大納言經房


月ゆゑに我が心こそ空ならめ鹿のねさへに澄みのぼる哉




平貞時朝臣

對月聞鹿といふ事を


山ふかみ絶え%\通ふ鹿の音に木の間の月も哀そひけり




藤原景綱

題志らず


誘はれて同じみ山や出でつらむ裾野の月に鹿ぞ鳴くなる




藤原基任


月みれば秋の思ひも慰むをなど夜とともに鹿は鳴くらむ




左大臣

正安三年八月十五夜内裏の十首の歌に、曉月聞鹿


よそに聞く我さへかなしさを鹿の鳴く音を盡す有明の空




入道前太政大臣

嘉元の百首の歌奉りし時、鹿


花ずゝき仄かにきけば秋霧のたち野の末に男鹿なくなり




前大納言爲世


小山田の庵立ちかくす秋霧にもる人なしと鹿ぞ鳴くなる




二品法親王覺助

百首の歌奉りし時


秋霧に立ち隱れつゝ鳴く鹿は人目よきてや妻を戀ふらむ




權僧正桓守

田家鹿を


山田もる賤が寐覺のをり/\や又鹿のねの遠ざかるらむ




圓光院入道前關白太政大臣


夜寒なる田中の井戸の秋風に稻葉を分けて鹿ぞ鳴くなる




法皇御製

山鹿といへる心をよませ給うける


深くなる秋の哀をねにたてゝ峯の男鹿も鳴きまさるなり




萬秋門院

嘉元の百首の歌に、鹿


鳴く鹿の聲もをしまず高砂の尾上の秋や夜さむなるらむ




平宗泰

題志らず


深き夜の哀は誰も知る物をおのればかりと鹿や鳴くらむ




前中納言季雄


よそに又泪を添へて聞くとだに知らじな鹿の音をば鳴く共




藻壁門院少將


岡邊なるいなばの風に霜置きて夜寒の鹿や妻を戀ふらむ




龜山院御製

弘安の百首の歌めしけるついでに


散にけり鹿なく野邊の小萩原下葉の色ももみぢあへぬに




從二位行家

初雁を


萩の上の露はいつより置きつらむ今は雲居の雁ぞなくなる




蓮生法師


雁なきて萩の下葉の色づくは我が袖よりや習ひそめけむ




平宗宣朝臣


山風のさむき朝げの峰こえていくつら過ぎぬ秋の雁がね




躬恒

屏風の歌に


故郷を思ひおきつゝくる雁のたびの心は空にぞありける




人麿

題志らず


行き通ふ雲居は道もなき物をいかでか雁の迷はざるらむ




後鳥羽院御製

千五百番歌合に


物やおもふ雲のはたての夕暮に天つ空なるはつかりの聲




權中納言爲藤

百首の歌奉りし時


秋風にきつゝ夜寒やかさぬらむ遠山ずりのころも雁がね




圓光院入道前關白太政大臣

霧中雁を


秋山の麓をめぐる夕ぎりに浮きて過ぎ行くはつかりの聲




藤原宗秀

霧をよめる


霧はるゝ室の八島の秋かぜにのこりてたつは烟なりけり




大江頼重


かり衣すそ野の霧は霽れにけり尾花が袖に露をのこして




讀人志らず


分けまよふ野原の霧の下露に涙ならでもそではぬれけり




法印定爲

百首の歌奉りし時


日影さす籬の花のいろ/\に露をかさねて晴るゝ朝ぎり




前大納言長雅

弘安の百首の歌奉りし時


立ちこめて日影へだつる程ばかり霧の籬に殘るあさがほ




永福門院

題志らず


うちむれて麓をくだる山人の行くさきくるゝ野邊の夕霧




權中納言公雄

文永二年八月十五夜五首の歌合に、未出月といふ事を


里人のをしむ心は知らねども山のあなたの月ぞまたるゝ




藤原隆祐朝臣

光俊朝臣よませ侍りける百首の歌に


夕ぐれは月待つとても物ぞ思ふ雲のはたての秋の山の端




藤原實方朝臣

人々月待つ心をよみ侍りけるを後に聞きて


諸ともに待つべき月を待たずして獨も空を詠めつるかな




前大納言爲家

題志らず


秋風に峰行く雲を出でやらで待つほど過ぐる十六夜の月




入道前太政大臣


待たれつる山をば出でゝ高砂の尾上の松に月ぞいざよふ




前大納言爲世

伏見院、位におましましける時、月の十五首の歌めされし中に


暮るゝ間の空に光はうつろひてまだ峰こえぬ秋の夜の月




民部卿實教

月の歌の中に


山の端のくるれば頓て影見えてまたれぬ程に出づる月哉




前關白太政大臣家讃岐


出でやらぬ程だにあるを山鳥の尾上の月に雲なへだてそ




信實朝臣


暮るゝ夜の嵐は何をはらふらむかねて雲なき山の端の月




堀河右大臣


夕されの空もさやかに澄み渡る月の爲にや秋も來ぬらむ




法眼源承

性助法親王の家の五十首の歌に


待ち出づる尾上の月はさやかにてた靡く雲に秋風ぞ吹く




紀淑氏朝臣

題志らず


卷向の穴師の河にかげ見えて檜原を出づる秋の夜のつき




津守國夏


天つ風雲吹きとづな少女子が袖ふるやまの秋のつきかげ




平貞文


雨降るゝ賤が伏屋の板間より月ぞもり來て袖ぬらしける




二條太皇大后宮攝津


春日やま峰のあらしに雲晴れて照る月影を幾夜みつらむ




信實朝臣

洞院攝政のいへの百首のうたに、月


雲は皆晴れにしまゝの秋風に幾夜もおなじ月ぞさやけき




津守國冬

嘉元の百首の歌奉りし時


はては又とよはた雲の跡もなしこよひの月の秋のうら風




皇太后宮大夫俊成

百首の歌よみ侍りけるに


月を見て千里の外を思ふにもこゝろぞかよふ白川のせき




權中納言爲藤

關月を


秋の夜は關の戸ざしも許さなむ行き止るべき月の影かは




永福門院

中宮きさきに立ち侍りて西園寺におはしましける頃行幸など侍りけるに、八月十五夜月面白かりければ中宮の御方へよみて奉らせ給うける


今夜しもくもゐの月の光そふ秋の深山をおもひこそやれ




今上御製

御返し中宮にかはり奉りてよませ給うける


むかし見し秋の深山の月影を思ひ出でゝや思ひやるらむ




續千載和歌集卷第五
秋歌下

大納言經信

月不撰處といへる心を


久方の空にかゝれる秋の月いづれの里もかゞみとぞ見る




鎌倉右大臣

題志らず


月見ればころも手さむし更科やをばすて山の峯のあき風




入道前太政大臣

嘉元の百首の歌奉りし時、月


つく%\と詠むるからに身に志むは月より秋の風や吹く覽




民部卿實教


物おもふ人のためとや秋の月うきを忘るゝ影を見すらむ




前大僧正實承

月の歌の中に


いつ迄か友と見るべき老らくの身の行末は月ぞ知るらむ




讀人志らず


なれて見る同じ光の月のみや六十ぢの秋の友となるらむ




法皇御製

百首の歌めされしついでに


老が世に秋の心もはれにけり六十ぢ近づく山の端のつき




前内大臣

前大納言爲世玉津島の社にて歌合し侍りし時、月


仕へつゝ見るぞかひある影靡く我身五十ぢの秋の夜の月




民部卿資宣女

題志らず


古へにすみこしまゝの影ならば月は幾世の秋を知るらむ




後久我太政大臣


ふりにける宿は昔の名殘にて月もかはらぬ影ぞひさしき




參議雅經

建保四年後鳥羽院に百首の歌奉りける時


秋の夜の月に幾度ながめして物思ふことの身に積るらむ




殷富門院大輔

百首の歌の中に


世の中の憂きにつけても詠むれば月を喞つになりぬべき哉




藻壁門院但馬

藤原光俊朝臣よませ侍りける十首の歌の中に


行く末をいかにせとよて今年又月見る袖のぬれ増るらむ




民部卿實教

題志らず


秋をへてやどりなれぬる我が袖の月は涙も厭はざりけり




前僧正公朝


いかばかり月見る人に厭はれむよそまで曇る涙なりせば




平時遠


人とはぬ深山の秋の寂しさを堪へてもすめる夜はの月哉




津守國道


長き夜は雲のいづくも明けやらで露にぞ宿る野邊の月影




少將内侍

百首の歌奉りし時


置く露の最ど深草里はあれて月のすむ野となりにける哉




皇太后宮大夫俊成女

月の歌の中に


尋ねても忘れぬ月の影ぞとふよもぎが庭の露のふかさを




皇后宮


秋萩の花野の露にかげとめて月もうつろふ色やかふらむ




藤原光俊朝臣


木の葉ふく秋風さむみ足曳の山邊にひとり月を見るかな




建中納言公雄


露霜の染めぬ色さへまさりけりかつらの里の秋の夜の月




前大納言爲家

建長元年九月十三夜鳥羽殿の五首の歌に、水郷月


さとの名もあらはに志るし長月の月の桂の秋のこよひは




源有長朝臣

仁治二年九月十三夜左大臣の家の十三首の歌の中に、月前雲


月影の遠ざかり行く山の端に殘るともなきよそのうき雲




藻壁門院少將

河月を


みむろ山峯にや雲の晴れぬらむ神なび河に月ぞさやけき




前中納言定家

殷富門院にて人々百首の歌よみ侍りける時、月の歌とてよみ侍りける


となせ河玉ちる瀬々の月を見て心ぞ秋にうつり果てぬる




平維貞

河月を


大井河こほりも秋は岩こえて月にながるゝ水の志らなみ




前關白太政大臣

嘉元の百首の歌奉りし時


風わたるにほのみづうみ空晴れて月影きよしおきつ島山




前大納言爲氏

從二位行家人々にすゝめ侍りける時住吉の社の十首歌合に、江上月


住の江の松の秋風おとづれて空にふけ行く夜半の月かげ




西園寺入道前太政大臣

寛元元年長月の頃、住江にまかりて翫明月といふ事をよみ侍りける


住吉の松も我が身もふりにけり哀れとおもへ秋の夜の月




前右兵衛督爲教

建治三年九月十三夜五首の歌に、江月


曇りなき影もかはらず昔見しまゝの入江の秋の夜のつき




寂惠法師

秋の歌の中に


老いぬれば昔ばかりもながめぬを心かはると月や思はむ




平泰時朝臣


もろこしの波路分け行く舟人は心のこらぬ月や見るらむ




權中納言爲藤

百首の歌奉りし時


すむ月の影さしそへて入江こぐあしわけ小舟秋風ぞふく




後二條院御製

江月といへる心を


ほに出づる荻の上風うちそよぎ入江夜さむにすめる月影




中務卿宗尊親王

百首の歌の中に、月


更け行けば松風さむし大伴の三津のとまりの秋の夜の月




前中納言定家

道助法親王の家の五十首の歌に、船中月


知らざりき秋の汐路をこぐ舟はいか計なる月を見るらむ




法印定爲

百首の歌奉りし時


わたつ海のかざしの浪も白妙に月もてみがく秋の浦かぜ




丹波忠守朝臣

左大臣の家の詩歌合に、月前眺望


明石がた浪の千里の末晴れて月はかぎりも見えぬ空かな




權大納言冬教

題志らず


伊勢の海や汐瀬遙かに雲晴れて月にぞかゝる秋のうら浪




津守國助

山階入道左大臣の家の十首の歌に、島月


浪かくる小島の苫や秋をへてあるじも知らず月や澄む覽




觀意法師

故郷月といへる事を


故郷とおもふばかりぞ難波がた昔にかはる月のかげかは




前大納言爲氏

住吉の社に奉りける十首の歌の中に、海邊月


難波がた浦よりをちの月かげに浪もへだてぬ淡路島やま




入道二品親王道助

家の五十首の歌よみ侍りけるに、山家月を


訪ふ人も嵐ふきそふ深山べに木の葉わけ來る秋の夜の月




承鎭法親王

題志らず


秋ふかきとこの山風身にしみて月かげさむき夜はの手枕




法印長舜

前大納言爲世よませ侍りし歌に、故郷月といふ事をよみ侍りける


あれにけり我が故郷の苔の庵見しよの儘に月はすめども




法印定爲

嘉元の百首の歌奉りし時、月


たきすさむ烟や殘る秋の田の鹿火屋が上にかすむ月かげ




慈道法親王

今上、位につかせおましまして後、護持僧に加はりて二間にまゐりてよみ侍りける


人よりもまづこそ見つれ九重の雲居にすめるよひの月影




春宮權大夫有忠

禁中月といふ事を


今ははや近き守になれし身もよそにみはしの雲の上の月




正三位爲實

二品法親王の家の五十首の歌に、竹間月


さゝ竹の大宮人はとひもこで葉分の月をひとりこそ見れ




式部卿久明親王

月の歌の中に


武藤野や入るべき峰の遠ければ空にひさしき秋の夜の月




前大僧正仁澄


秋の夜の月はいづくとわかね共我住む山の影ぞさやけき




鎌倉右大臣


さゞ波や比良の山風さ夜更けて月影さむし志賀のから崎




津守國助


河風に有明の月を待ち出でゝ寐ぬ夜ふけぬる宇治の橋姫




爲道朝臣

永仁二年八月十五夜十首の歌講ぜられし時、山月聞鐘といふ事を


更けゆけば鐘の響もあらし山そらに聞えてすめる月かな




大藏卿隆博

題志らず


明けやらぬ鐘の響はほのかにて初瀬の檜原月ぞかたぶく




大炊御門太政大臣女


鐘の音に寐ざめて見れば曉の窓にぞ月はかたぶきにける




前大納言俊光

百首の歌奉りし時


長き夜もしばしと思ふうたゝねの枕の上に月ぞかたぶく




前大納言爲世


明石がた沖にかたぶく月影に雲こそなけれ波ぞかゝれる


素暹法師

海上月を


山の端のみえぬ計りぞ渡つ海の波にも月は傾ぶきにけり




惠慶法師

月の入るを見て


月の入る山のあなたの里人とこよひ計は身をやなさまし




藤原實方朝臣

題志らず


雲懸る峰だに遠き物ならば入る夜の月はのどけからまし




後鳥羽院御製


袖のうへになれてもかなし奥山の松の葉わけの有明の月




爲道朝臣


いかゞせむ長き習の秋の夜も月をし見れば明くる易さを




藤原景綱


あかず見て明くる名殘の惜しければ月にもつらき鳥の聲哉




源順

草村虫といふ事を


草村のそこまで月の照せばや鳴く虫の音の隱れざるらむ




大藏卿隆博

建治三年九月十三夜五首の歌に、野虫


哀れとは何れをわきて秋の野に多かる虫の聲をきかまし




前攝政左大臣

題志らず


此の暮と頼むるひともなき宿にその事となく松虫ぞなく




昭訓門院春日

百首の歌奉りし時


更て社つらきも見えめ松虫のくるゝよりなど音には立つ覽




從二位家隆

前大納言爲家の家の百首の歌に


草の原くるゝ夜ごとの秋風に人をや頼むまつむしのこゑ




神祇伯顯仲

夕虫をよみ侍りける


夕されば蓬がねやのきり%\す枕のしたにこゑぞ聞ゆる




前大納言爲家

弘長の百首の歌奉りける時、虫


きり%\す思ふ心をいかにとも互に知らでなき明すかな




今上御製

聞虫といへる心を


露ふかき夜さむの秋のきり%\す草の枕に恨みてぞ鳴く




民部卿實教

題志らず


心とやなきよわるらむきり%\すおのが涙の露の夜寒に




春宮大夫公賢


いとゞ又虫や恨むる淺茅原おきそふ霜の夜さむかさねて




藤原基任

前大納言爲世よませ侍りし三首の歌に、叢虫


霜むすぶ淺茅が原の蟋蟀かればともにと音をや鳴くらむ




讀人志らず

題志らず


色かはる淺茅が末葉露ちりて虫の音さむく秋かぜぞ吹く




後九條内大臣

弘安の百首の歌奉りける時


淺茅生の霜夜の虫も聲すみて荒れたる庭ぞ月はさびしき




土御門内大臣

故郷虫を


虫の音はかはらぬ秋の恨にてすみ捨てゝける淺茅生の宿




左大臣

百首の歌奉りし時


下葉ちる小野の萩原吹くかぜに床あれぬとや鶉なくらむ




皇太后宮大夫俊成女

寳治の百首の歌奉りけるに、秋田


小山田の庵もる賤のあきの袖宿かる露ぞおきあかしける




爲道朝臣

田家擣衣を


夜寒なるかりほの露のいねがてに山田をもると衣うつ聲




光明峯寺入道前攝政左大臣

家の七百首の歌合し侍りけるに、風前擣衣


衣うつきぬたの音も高圓の山の木の葉にあきかぜぞ吹く




法印定爲

嘉元の百首の歌奉りし時、擣衣


高圓の尾上もさむき秋風に袖つきごろもたれかうつらむ




法眼兼譽

里擣衣


秋ぞともわかぬときはの里人はたゞ夜寒にや衣うつらむ




藤原顯盛

題志らず


尾花ふくかり庵さむき秋風にうぢのみやこは衣うつなり




内大臣

百首の歌奉りし時


故郷の月をいく夜か三吉野の山風さむみころもうつらむ




參議雅經

秋の歌の中に


深草や霧の籬にたれ住みてあれにし里にころもうつらむ




前大納言俊光

嘉元の百首の歌奉りし時、擣衣


遠近に衣うつなり里人の夜さむやおなじこゝろなるらむ




今上御製

聞擣衣といへる心を


急ぐなる秋のきぬたの音にこそ夜さむの民の心をもしれ




入道前太政大臣

弘安の百首の歌奉りける時


夜さむなる須磨のあま人今よりや風に恨みて衣うつらむ




大江貞重

海邊擣衣を


秋さむくなるをの浦の海士人は波かけ衣うたぬ夜もなし




前大納言爲氏

前大納言爲家人々によませ侍りける日吉の社の五十首の歌合に、湖邊擣衣


さゞ波やにほてる蜑のぬれ衣浦風さむく擣たぬ夜もなし




皇太后宮大夫俊成女

寳治の百首の歌奉りける時、聞擣衣


あぢきなくいそがぬよその枕まで夢路とほさずうつ衣哉




伏見院御製

擣衣驚夢といへる心を


おどろかす砧の音に小夜衣かへすほどなきうたゝねの夢




遊義門院

題志らず


擣ち明す砧のおとの悲しきは長き夜さむの寐覺なりけり




忠房親王

百首の歌奉りし時


夜もすがら月見る人のいねがてに曉かけてうつころも哉




源邦長朝臣

擣衣をよめる


誰れ故 かたぶくまでの月影にねなまし人の衣うつらむ


從二位宣子


賤がうつよその砧のおとのみぞ秋の寐覺の友となりける




前僧正雲雅

百首の歌奉りし時


ぬれつゝや志ひて擣つらむ白露の曉おきの麻のさごろも




大藏卿隆博

弘安の百首の歌奉りける時


袖の上の露もみだるゝ秋風に誰か忍ぶのころもうつらむ




龜山院御製


殘りける秋の日數をかぞへつゝ霜の夜な/\うつ衣かな




法眼源承

性助法親王の家の五十首の歌に


白妙の袖の初霜月さえていとゞ夜さむにうつころもかな




皇太后宮大夫俊成

久安の百首の歌に


山川の水の水上たづねきて星かとぞ見る志らぎくのはな




藤原興風

延喜の御時、菊合に


散り果てゝ花なきときの花なれば移ろふ色の惜しくもある哉




二品法親王覺助

籬菊を


秋ふかきまがきは霜の色ながら老せぬものと匂ふ志ら菊




今上御製

菊の枝につけて奉らせ給うける


仙人の千とせの秋をゆづりおきて君が爲にと咲ける白菊




法皇御製

御返し


行く末は猶長月の菊の枝にかさなる千世を君にゆづらむ




新院別當典侍

重陽の心を


行く末の秋を重ねて九重に千代までめづる菊のさかづき




永福門院内侍

題志らず


殘りける秋の日數もあるものをうつりなはてそ庭の白菊